【新ポスター作成記念第二弾】小さい生き物いろいろ語ります

こんにちは。

副代表の中里です。

理科実験ポスターシリーズ、第二弾です。

他のポスター紹介シリーズはこちらから!

今回は少しこのポスターに関連する話をしましょう。

1.見える生き物、見えない生き物。

皆さんのまわりにいる「生物」というとなにがいるでしょう。

人間、ペット、蚊、魚、蟻、蛸…

ついつい「見える」「食べられる(?)」「近くにいる」生き物に目を向けがちです。

だいたいそういう生き物には、漢字で名前がついています。

(「ペット」は?って思った方、「愛玩動物」という言い方もできますね。余談です。)

 

けれど、私たちの周りにいる生き物はそれだけではなく、「匹数」で言えばその大部分を占めるものがあります。

そう、

です。

(なんでカラフルなのかって?その方が楽しそうじゃない?の多様な世界を体感してほしいのです。)

2.見えない生き物、多彩な世界がきっとある。

の特徴として今回は、①何より小さいことと、それから(往々にして)②複製サイクルが短いこと、③多様であることを挙げたいと思います。

多くのは、体が小さく必要な資源も少なくてすむため、短い時間でたくさん増殖します。そのため、世代交代のサイクルが短く、個体数もとても多くなるので、そのぶん突然変異がたくさん蓄積しやすく、結果として多様性が高くなります。

小さいことって、いろいろなメリットがあるのですね。

これらの特徴を活かして、ゲノム編集や進化研究のモデル生物として活用されるも多くあります。

体躯が小さいことから来る多様な面白さが、研究の楽しみなのです。

余談ですが、私の卒研テーマも(巨大ウイルス)関連なので、研究者の端くれとして、この面白さを皆様にご紹介しておこうと思います。

3.、どんな生き物がいるの?いつ見つかったの?

研究・学の興りは、17世紀後半–18世紀前半の科学者「学の父」アントニ・ファン・レーウェンフックの登場を待たねばなりません。

Antonie van Leeuwenhoek (1632-1723)

レーウェンフックは、顕微鏡作りのプロフェッショナルでありました。

彼の作った顕微鏡と同じ仕組みの簡易顕微鏡は、下のリンク先でも紹介をしています。

スマホ顕微鏡のつくりかた(SCOPEの別ページに遷移します)

彼はガラス球を磨くという極めてシンプルな作業を極めることで、これまで誰にも成し得なかった倍率で(特に細菌)の存在と生態を明らかにしていったのです。

そんなレーウェンフックが見つけたの世界ですが、一口にと言っても、その実態は小さな生き物の集合でしかありません。

極めて小さく、非生物的特徴を持つウイルスから、腸内フローラなどで話題の細菌、醤油作りから薬、キノコやカビまで幅広い真菌、われわれと同じ(特にエビ・カニなどの甲殻類と近い)多細胞生物のミジンコまで、たくさんのがいます。

(ミジンコは今回のポスターの表題にもなっていますね。多細胞生物なので心臓をもつわけです。)

逆に、単細胞生物はすなわちである、と思われがちですが、こんな例もあるのです。

沖縄土産ウミブドウです。

実は、ウミブドウは巨大な単細胞生物なのです。(沖縄科学技術大学院大学(OIST)で面白い研究(別サイトに遷移します)があったので、ご紹介します。)

こんなに複雑な組織も、じつは一つの細胞からなる小さな生き物が巨大化した一例です。

逆に、単細胞生物が多細胞化した過程がよくわかる生物がいます。

みなさんご存知、クラミドモナスです。

クラミドモナスの顕微鏡像 体長は0.01 mmほど

えっ、知らないって?

えー、改めて、みなさんご存知、ボルボックスです。小学校でも習いますね。

ボルボックスの顕微鏡像 直径は0.2~1.3 mmほどにもなる。外側にクラミドモナスと同じような体細胞がみられる。

ボルボックスは、まん丸とした群体を形成し、光合成を行う多細胞生物で有名ですが、ボルボックスの1細胞とほぼ同じ形態をとる近縁の生物がいます。先ほど挙げた、クラミドモナスです。

ボルボックスが多細胞化したのは比較的最近のことであると考えられ、クラミドモナスなどのように、多細胞化する過程を保存したかのような近縁種が多くあることが知られています。

ユードリナの一種。 細胞数の増加に応じて機能分化がみられるが、これらは比較的ボルボックスに近い段階まで分化が進んでいる。

4.役に立ってる!

ここまで「って良いよ!楽しいよ!」って話をしてきました。

ここからは少し視点を変えて、私たちの身の回りでがどのように役立っているのか、少しご紹介したいと思います。

たとえば、風邪を引いた時によく処方される「抗生物質」ですが、著名なものとしてストレプトマイシンがあります(結核の特効薬です)。このストレプトマイシンは Streptomyces griseus というストレプトマイセス属に属する細菌によって産生される物質で、微生物探索によって発見された物質です。このストレプトマイセス属の細菌からは、カナマイシンなど他の抗生物質や有用物質が多く見つかっています。

もともと、が自身を守るために出していた物質(=毒、と言ってもいいかもしれません。)が、そのまま抗菌作用として転用できることに人間が気がつき、活用している好例と言えるでしょう。

他にが活用される好例として、発酵食品が挙げられます。

日本の国旗は日の丸、日本の国花は菊や桜が知られていますが、日本の国菌はご存知でしょうか。

そう、みなさんご存知、Aspergillus oryzae です。

えっ、知らないって?あの有名なAspergillus oryzae を?

先述の通り、2006年10月12日に日本醸造学会大会で国菌に認定されたことでも知られています。

和名ではニホンコウジカビといい、醤油や味噌、日本酒、焼酎などを作るのに使われている、Aspergillus flavus の近縁種を家畜化し伝統的に用いられてきた菌のことです。

このアスペルギルス属の真菌には、ニホンコウジカビに近縁な野生種であるAspergillus flavus をはじめ、ヒトに感染して病気を引き起こすものや、カビ毒を産生するものがあります。

しかし私たちの祖先は、この Aspergillus flavus 近縁種の家畜化にあたって、長い時間をかけて強力なカビ毒アフラトキシンを産生できない変異株(アフラトキシン合成に必要な遺伝子群が変異や欠失によって実質的に働かなくなった株)だけを経験的に選び取り、極めて安全で安定した系統を作り出してきました。

なので、現在のニホンコウジカビは高い安全性と安定性をもち、安心して食品に使うことができるわけです。

こうした性質は、日本国内の研究グループを中心に行われた Aspergillus oryzae の全ゲノム解析と、Aspergillus flavus との比較からも明らかになっています。

この「麹」を用いる文化は、まさに伝統的なバイオテクノロジーとも言えるでしょう。

ちなみに、Aspergillus oryzae oryzae は、「米」を意味します。米は麹発酵の主役でもあり、米に関係の深い日本の国菌にぴったりの名前ですね。

まとめ

このように、私たちの周りにはたくさんの特徴を持ったがいます。

私たちのよき隣人であるたちに、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

それではまた。